眩しい朝日が射しこむ。僕は隣で眠る恋人の寝返りで目が覚めた。寝不足で目の下に隈を作りながらも、子供のようにあどけない顔で眠るノロの頬に、思わず触れたくなって指でぷにっと優しく押してみる。指先で触れた肌の感触に、こうして一緒のベッドで朝を迎えられるのは嬉しいことだと実感する。首筋にあった昨日のキスマークに重ねるようにキスをしてから、すやすやと眠り続けるノロの顔を見つめた。もう少し眠りたい気持ちと、このまま寝顔を見つめていたい気持ちが半々で、どちらに転がっても幸せかもしれないとぼうっと寝惚けた頭で迷った。
 ふと視界に入ったノロの手首がうっすらと擦り切れているのが見えて平手打ちを食らった気分になる。
 ──やってしまった。
 その癒やされることなく放置された傷が起爆剤のようになって、何もかも記憶を鮮明に思い出す。息をも奪うようなキスに、擦り切れそうな快感の記憶。唐突に溢れ出し、頭を抱えたくなった。昨夜僕はノロを半ば強引に抱いた。そして、あろうことか怪我の手当ても忘れて眠りこけていたのだと思うと、申し訳なさで胸がいっぱいになった。
 すぐにかすり傷に意識を集中させスペル(呪文)を唱えた。癒しの風と共にエーテルが集まり、傷が一瞬で塞がる。固まって既に乾ききった血痕だけが後に残る。僕はその痕を消すように丁寧に舐めとった。血が少しずつ唾液と混じりあい、徐々に赤茶色の痕跡が消えていく。跡形もなく消えた傷と、血痕の代わりにキスマークを残す独占欲に、自分でも呆れた。

☽✧˖°

 自分を止めることができないくらいには少しばかりイライラしていたのも確かだった。
 ノロが快楽から逃げようする度に意地悪く全て阻止した。乳首がぷくりと腫れて熱をもつまで舐めて、噛んで、しゃぶった。もうそこはいいからーーそう言って胸を隠すようにして寄越した手を掴んで、傍にあったハーブを乾燥させる為の紐で結んだ。限界だからと言って逃げ腰になるノロを見れば、より深く繋がれるように足首を掴んで肩にかけ、逃げられなくした。
その肌に、体の持つ熱に、夢中になって放したくなくて、僕は欲求不満が爆発した子供のように無我夢中で溺れた。
 ーーイくっ。
 ノロのせり上がった裏筋を指先で何度かさする。震えるようにして先端からあふれ出る白濁が僕とノロの腹を濡らす。
「ロワ、もう熱すぎて……のぼせそう」
 久々の行為にたまっていたものを何度もノロの中に出した。苦しそうに息をしているノロを見て、僕は彼にもわかるようにわざとらしく繋がっている秘部を指でなぞった。指先の感覚までも敏感に感じ取ったのか、敏感な肌がひくりと反応する。
ノロの秘部からいやらしく溢れ出ている白濁を指ですくって、「こんなに零れちゃったね」とノロに見せつけた。
「ロワ……」
 不服そうなノロの目は僕がまだ足りないというのがわかっている目だった。寝不足の上に、幾度もイかされて、体力が限界なのだろうと察しはついた。だけど、僕はかまわず腰を穿つ。
 濡れた中が、応えるようにきゅっと締め付けてくる。
「んっ……」と、多分いいところにあたって、ノロの喉から小さく声が漏れた。
 やめたいというノロの意志とは裏腹に、体はまだ刺激に敏感になっているのが嬉しい。
 眼鏡を外したノロは金の双眸を眩しそうに細め、僕に抗議する。もう寝たい。疲れた。体力も限界だ。だけど、奥に触れられる度に、また体が熱を持ち始める。うずいて、もっと欲しくなる。その矛盾に狼狽えている。
 短く切り揃えられた髪を撫で、キスをしようと前屈みになれば、挿入が深くなる。普段、難しい言葉や理論を繰り広げるその唇から、甘く悩ましい吐息が吐き出されるのを見て、背中がぞくりとする。
 恋人を支配したいとは思わない。ただ、他人に見せない僕だけに許された瞬間を見たいとは思う。
 熱に浮かされて、与えられる快楽でいっぱいいっぱいになって、僕に組み敷かれる。悶えるノロを見ていると、おかしくなる。なまめかしくまどろむような表情で、口では苦しいと言いながらも、その目が期待するように僕を見つめる。あぁ好きだ、と思う。もっと見たい。もっと触れていたい。
 涙でじっとりと濡れた目元にキスをすれば反射的に目を閉じたのが可愛いらしい。
「もう少しだけ一緒に気持ちよくなろう?」
 僕はずるい大人だ。つくづく思う。ノロは僕より年下で、僕は僕なりに意識して普段からあまりわがままを言わない。だから、時々、こうして僕は自分のわがままを受け入れてもらう。そういうツボや瞬間を、僕は知り尽くしている。

☽✧˖°

 ーーノロ、もうそろそろ寝よう。

 レポートがあと少しで終わる。彼がそう言ってから、三時間は経った。作業机に向かった背中は、終わった、とペンを転がす気配すらない。
 ペン先が紙の上を止まることなく滑っているのは、聴いているだけで眠くなりそうなカリカリという音でわかった。僕はそのペンがころりと小気味いい音をたてて転がるのを今か今かと待っている。
 頭を使うときには糖分を。デスクに置いておいたアインシュペナーは上のクリームがぐちゃぐちゃに溶けて、分離して、ローストコーヒーの上にふわふわと浮いていた。既に美味しかったはずの時は過ぎ、今となっては得体の知れない不味い飲物へと化している。シナモンの香りだけが唯一の救いと言っていい。
 今日で何日目だろう?
 昨日は朝起きるとノロは椅子で寝こけていたし、一昨日は僕が目覚めた時、まだ筆を動かしたり、難しい顔で本を読んでいた。
 そして寝ぼけ眼の僕に毎度、決め台詞のように言うのだった。

「もう少しで終わるから」

 ノロの“もう少し”の意味がちっともわからなかった。この言葉は昨日今日に始まったことではないのだけれど、未だにその感覚がわからない。もう少しと言って、本当に少しで終わる時もあれば、一週間、いや、それ以上の時間を要することもあるのが常だ。
 ノロを待つ間に、僕はいつもノロが巴術士ギルドで適当に見繕って借りてきてくれた本を読む。今日もそうしてもて余す待ち時間を文字を追って過ごしていた時だった。
 そこに書かれたある一文を読んで雷に撃たれるような衝撃を受けた。
 ーー睡眠とは幸福であり、睡眠の無い生活は寿命を縮めることとなる。
 思えばノロはすぐ徹夜する。
 寝るのを忘れる、なんてあり得ないことだが、彼の辞書には多分その一文がある。
 僕はさっそくいいネタを握って、のそのそとノロに近づき、彼を抱き締めた。
「ノロ、もう寝よう」
「ああ……これ書いたら行く」
 こんな調子の返事が返ってくるのは大体予想がついてはいた。万年睡眠不足男は少々手強い。
「ダメだよ。もう何日もベッドでちゃんと寝てないだろ」
「そうだったかな」ととぼけたように言うノロには、自分に睡眠が足りていないという自覚すらないのだと、驚きを隠せなかった。
「睡眠が少なすぎると寿命が減るってさっき読んだ本に書いてあった」
 ノロの髪を指先で弄び、僕は、熱っぽく彼の首筋にキスを落とす。
「くすぐったい」とくすくす笑うノロの筆は止まらない。そのまま、隣の参考文献をいくつか漁って彼の求める答えが載っているページを探し始める始末だ。僕はなんとかその手を止めさせたかった。
 熱中すると他に手がつかなくなるのは知っていた。だけど、こうして気を惹こうと触れてみても笑うだけで決してレポートから目を放さないなんて、正直恋人としても面白くない。
 ――まるでレポートが君の恋人みたいじゃないか。
 そう一度思ってしまえば感情のたがが外れた。多分、そう、僕は睡眠云々というよりもその瞬間、レポートに嫉妬した。
「まだ起きてられそうだから、疲れたら寝ることにする。先に寝てて」
 止めの一言だった。それを聞いた途端、どこかでプツンと糸が切れた。
「わかった。なら、僕がその“疲れ”とやらを体に刻んであげるよ」
 耳にふっと息をかけて、舐めて噛りつく。
 ノロの体がびくりと震え、参考文献を捲る手がその瞬間、やっと止まった。

「まっ……て……ロワ……ぁっ」
 声が切なそうに枯れて、嗄れているのを、ノロは自覚しているのだろうか。それがどれだけ無自覚に僕を煽っているか、彼はわかっていない。
 腰の下に、薄めのクッションを一つ置いて、繋がっている秘部をさらに深く穿つ。ノロの足の指先が引きつるように緊張して震えた。
「もっと奥、入ったよ」
「っ、この腰の、取って……これイヤだ」
クッションが嫌だとノロは首を振るけれど、涙を溢しながらも熱っぽい吐息を吐いている姿をみれば、そのイヤという言葉も、言葉通りの意味ではないとわかる。
「本当に嫌?……これあると奥に当たって気持ちいいでしょ」
「……響いて……怖い」
 いつもより深く繋がって、のけぞるノロの首元にキスを落とす。さりげなくキスマークを残す。
筋肉質な腹部を指でつんつんと突いて、そこからなぞるように下腹部に向けて爪先ですっと線を引く。悩ましげな吐息がノロの唇から漏れた。
「ここまでノロのお腹に僕が入ってるのわかる? 触って」
「っ……今日のロワ、何か変だ……」
「どう変?」
「意地が悪い」
「それはそうだよ。今日のはお仕置きだからね」
「なんの……」
 毎日ノロの家に泊まってはいたが体を重ねるのは久しかった。
 手と口でノロをいかせて、繋がってからまた一緒にイく。それで今日の情事は終わりにするつもりだった。それなのに中に出した後にお腹を撫でながら、気持ち良かったと呟いたノロを見ていたら、歯止めがきかなくなった。

 ーーそんなんじゃまだ眠れないよね?

 僕はイったばかりの敏感なノロの体に再び穿ち、隅から隅まで全部食べ尽くすように貪ったのだった。何度も達した。それなのに一向に熱が収まらない。今日は体力が無限にあるんじゃないかと思うほど僕はノロを夢中で貪り続けた。
「ねぇ、ここの深いところで出したい」
 いい? と耳元で囁くと、「絶対変になる」と返ってくる。
「変になったノロが見たい」
 耳まで赤くなった恋人の唇を奪う。震えながらも一生懸命キスに応えるのが、たまらなく可愛らしい。
 奥を探るように突く。腰の角度を変えて、優しく愛撫しながら押し付ければ、不意に普段届かないもっと先に先端が入り込むのがわかった。
 ノロが一際大きく息を止めて、驚いたように腰を引く。
「ここだね」
 僕に今抱かれて、乱れる恋人は正直言って、羨ましいぐらいにセクシーだ。
 この前、巴術士ギルドで噂している女の子達がノロを見て、色っぽいなどと噂しているのを聞いた。他の冒険者達からもそういう目で見られているだなんて、きっとノロは知らないんだろうけど、こんな姿を見れるのも恋人の特権だと思うと、たまらない。
 もっと……もっと君がほしい。今夜の僕はいつもよりもずっと欲深い。一際大きく強弱をつけて腰をノロの奥まで進める。さっき見つけたいつもは入り込まない場所まで愛撫して、深く繋がる。繋がる度に口を半開きにして震えるノロがたまらなく可愛い。内側の温かさと締め付けてくる気持ち良さに思わずイきそうになりながら、僕は言った。
「ねぇ、ノロ、見てて」
 敢えて宣言することで、ノロの視線をこちらに向けさせるのは少しずるいのかもしれない。だけど見ていてほしかった。
 ノロの自由のきかない手を掴む。僕に縛られた手首。少しばかり紐に血がにじんで痛そうだった。あとで治してあげるからね、なんて後回しにするところ、本当に、今夜の僕はかなり狂っている。
 右手の親指から順にノロの指を丁寧に、丹念に舐める。まるで砂糖菓子でも舐めるように、美味しそうに舌を這わせる。右手の親指と人差し指はノロがレポートを書くときにペンを支える二本の指。左手の人差し指と中指は、本のページを捲るときによく使う二本。
 僕は見せつけるようにしゃぶった。指先についたインクの苦さと、汗のしょっぱいさが舌の上で混じった。
 爪先を吸い、第一関節をやわらかく齧る。
 次にペンを握るときに彼がこの熱を思い出せばいい。そんな風に思った。
「ノロ?」
「っ……」
「もしかしてイった?」
「イっ……てない……」
射精こそしてないが、太ももから爪先にかけて、張りつめたように足が伸びて、ノロの体が何度か痙攣した。
「顔、見たい」
「今はだめだ」
 縛られた両手で顔を隠すようにするから、僕はどうにかノロの顔を見たくなって、縛っていた紐をゆっくりとほどいた。
 自由になった両腕をゆっくりと力ずくで左右にずらすとその表情が見えた。
 苦しそうに顔を歪めながらも、頬が赤らんでいる。熱を体の外に逃がすような呼吸は肩を揺らすほどに長く大きい。
 ヘリオドールの宝石のように綺麗で透き通った瞳がこちらを見た。思わず見とれた。直後、ノロの手がいつの間にか僕の唇をなぞる。今宵、されるがままだった彼が今度は僕に噛みつくようにキスをする。
 舌と舌が絡み合い、ちゅくっと音をたてた。とろけそうな幸せを感じながら舌を吸われる感覚の中で、僕は少し後悔した。
 レポートに熱中する背中や、もう何日も一緒に眠っていなかったことや、朝起きて隣に温もりがないことを心のどこかで寂しく思っていた。だけど、そんなことを思う必要なんてなかった。
 僕が再び腰を動かすと、口付けを止めてノロがゆるゆると首を横に振った。
「も……これ以上突かれると……」
「どうしたの?」
「チカチカする」
「それは、気持ちいい証拠だね」
 いつになく、甘い言葉で、いつになく酷いことを僕はノロにしている。自覚はあったけど、もうその夜は止めることができなかった。
 より深く繋がるごとに僕も締め付けられて、ノロの言うように目の前がチカチカした。小さな火花が目の前で散って、意識が何度も飛びそうになった。その甘い共鳴のような感覚に、このまま溶けてぐちゃぐちゃになってしまいたい。
 ーーもう、出る……。
 ノロが甘えるように僕の腰に足を絡めた。

☽✧˖°

 ノロの中に吐精して、最後に水飴のように紅く濡れたノロの唇を奪う。舌を絡めるようなキスのあまりの気持ち良さに何も考えられなくなりそうだった。
 ノロが静かに寝息をたて始めたのはキスの途中だった。
「おやすみ、ノロ」
 これ以上なく満たされた気持ちになって、情けないくらいふらふらになった体を起こす。さて、と一度ベッドから降りようとしたときだった。ノロの腕が背後から伸びてきて、ぬいぐるみのようにぎゅっと抱き締められる。身動きがとれなくなった。
 どこにそんな力が残っていたのだろう。ぴったりと抱き留められてしまい、もがいてもノロの腕の中から抜け出すことができない。
 うなじに吐息がかかり、「一緒に寝る」と小さな声が聞こえた。僕は後処理を諦めて、されるがままに背中にノロの肌を感じた。そのまま少しの間だけ目を閉じて、真夜中の午睡を貪った。

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(真夜中の午睡は君と)
午睡:お昼寝のこと。
お題:眠らないノロ君にお仕置きを(ロワノロ)
2020/01

ロワノロってめったに書かないから、食いつくしておきました。

くおちゃんと相方になって一年♪
いつも一緒に遊んでくれてありがとう:(*´////`*):

ぷーやんより