※Attention※
紅玉海に、鬼が住んでいて、人のエーテルを
食らって生きていたらという話。
鬼(ノロ)とエクソシスト(学者ロワ)の話。

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 自分にとって、その行為は食事と同じだった。かじって、吸いつくして、満足して。また空腹になれば食べに行く。そういうサイクルが決まっている。

 虫の息の男の腰を掴み、追い討ちをかけるようにして、自らの性器を挿入し激しく動かす。
 虚ろな目を細め、深いところを抉られる瞬間だけ、ぎゅっと目を瞑り体を震わせる。それだけで、疲れきった体でなお男が快感を味わっているのがわかった。
 感じてくれなければ困るのだ。その瞬間にこそ、より強力な妖力を補うことができるのだから。
 しばし強弱をつけて腰を振れば、投げ出されていた男の手が頭上のシーツを掴むのを見た。力無かった性器が先走りを始め、指でさらに刺激すると徐々に固くなる。
吐息を漏らす声に、少し枯れかけた嬌声が混じりだしたところで、ぎゅっと根本を紐で縛った。
 ほどこうと下がってきた右手を掴んで、柱にくくってあった鎖に繋げる。
「もう……いやだ……」
 男は果てることのできない快楽に耐え、嫌だと静かに涙をこぼした。
 この状態が甘美なのだ。ずっと続けばいいと思うほどに味わい深い。
「ロワ、我慢だ」
 言い聞かせるように言えば、彼は喉を痙攣させて、すすり泣く。
 片足を肩に担ぎ、そのまま突き上げる。
 繋がれた鎖がカシャリと鳴ってロワの動きを封じた。それはまるで呪いのように、手首に絡み付いて、絶対に離さない。彼のその自由がきかない状態が、扇情的だった。
 抱えた足の足首を掴んで、ふくらはぎに噛みついて歯形をつけ、徐々に太ももまで伝って唇を落とす。ロワの秘部がひくひくと動いた。当の本人は嫌々と涙をこぼして快楽から逃げているというのに、体はより快楽を貪るように素直だった。
 少しずつ自分の体が温まっていくのを感じた。妖力が戻ってきた証拠だ。
 いきたい、いきたいと叫ぶように言うロワから一気に性器を引き抜き、うつ伏せにさせて再び後ろから挿入した。
 背中に電流が走ったようにロワがビクビクと震える。
 白い素肌は傷一つ無く、うなじから尻にかけて流れるような背筋はなかなかに美しく、そそられる。
 ロワの尻を叩くと、きゅっと内が締まり思わず吐息が漏れた。何度か繰り返すと、叩かれた箇所がダリアの花びらを散らしたように赤くなった。
 真っ白い絹糸のような素肌を赤く染めている感覚がたまらない。
「あっ……なかっ……くるし……」
 興奮して肥大し、さらに熱を持つ性器を直に粘膜で感じたのだろう。喘ぎの中に、ロワの焦ったような声が混じった。
 浅いところで出し入れすると、鬼頭が刺激される。ロワの内側とそこが擦れあう瞬間はなかなか悪くない。
 ロワは少し物足りなそうに黙っていたが臀部を叩けば、羞恥からか枕に顔を埋め込むようにして息を殺す。
 精液を吐き出せない苦しさ。内側を抉られ、叩き込まれる感覚。外から臀部を叩かれる僅かな痛み。すべてがぐちゃぐちゃになって、今のロワにはなす術がない。だが、それでいい。
「今日はこっちでいけるな?」
 赤くなった臀部を優しく撫で、少し深くまで腰を叩きつけるように振る。
「いけ、ない……前が……いい」
「こっちでいけ」
 そう。これはロワという名の食糧にすぎない。妖力を補うための手段。だから、彼に選択権は無い。選ぶ権利など元々ない存在だ。
「まえ、こっちで、い、た時……こわかっ……たっ……いや、っだ……」
「俺は、こっちの方が旨かった」
 腰を掴みながら、ロワの弱いところを探っていると、大袈裟に腰がびくりと跳ねるところを見つけた。そこを重点的に突き上げる。
 拘束されていない方の手が腰の動きを阻止しようとしてきたから、掴みあげて、捻るようにしてロワの背中に留める。
 残る抵抗もむなしく、声にならない声で、ロワは快感に喘ぎ続けるしかない。
 いけ、と言って入り口から最奥まで挿入すれば腰や手足がびくびくと痙攣した。
 熱っぽく上がった息が快感を受け流すように何度も吐き出され、その度に肩が大きく上下に揺れる。
 臀部の波打つような動きが止むと、ロワは力尽きたように布団に身を沈めた。
「いい子だ」
 ロワの腰をつかみ、引き寄せる。まだ熱を持っている性器の根本。紐をほどいてやり、片手で刺激する。手と性器の摩擦でくちゃくちゃと厭らしい音が響く。
すぐに尿道から体液が飛び出した。それはいつもの精液とは違い色もなく透明だ。
「こっちも、ちゃんと出せたな」
「もう……許して……」
「まだ俺は出してない」
 ロワの体がもたないならそれでいい。また次の力のある人間を探す。ただそれだけだ。
 ロワの頭を掴んで後ろを向くように促す。
 金色と水色のオッドアイはまだまだ色褪せていない。
 もう少し、楽しませてくれるだろう。そんなことを思いながら、まだまだ貪り、凌辱した。

◆◆◆

 喉がかわいて、干からびそうだった。重い瞼。目を開く。部屋は相変わらず変わらない光景だった。木目の天井。襖の障子に差す光はいつ見てもゆらゆらと揺れている。
 今は何時か。時間もわからない。
 この部屋に閉じ込められ、鎖に繋がれてもう何日たったのか。知る術すらもない。
 シャツ一枚だけ着せられ、露になる太ももから足先まで、所々噛み痕やキスされて吸われた痕が残っている。
 視界に入っただけで思い出される記憶に赤面し目をぎゅっと閉じた。
 キスマークの腫れと、腰の鈍い痛みから快感が甦る。それだけで、背中がぞくりとして焦る。
 このまま自分で処理しても、もうそれだけでは物足りない身体にされている。それがわかっているからこそ、次に鬼が来るのを待つ方がいい。
 頭上に水とシャインアップルにラノシアオレンジが置いてあった。見つけてすぐに掻き込むようにかじりつき水を飲む。
 口の端から水が零れるほどに必死に飲み干した。
 シャインアップルはまだ青く、酸っぱかったが、関係なかった。今は腹を満たしてくれるものであればなんでも良かった。
 布団から少しはなれたところに水桶とタオルがあった。手を伸ばしても届かず、近づこうとすると両足にくくりつけられた鎖に邪魔されてあと少しのところで届かない。
 もう少しで届くのにと思い、踏ん張ると、その瞬間に目を見張った。
 鎖が外れた。確かな音を立てて。
 一瞬何が起こったのかわからず、足元をまじまじと見た。
 耳を済ます。人気がなく、鬼がくる気配もない。
 もしかしたら、今が最初で最後のチャンスかもしれない。
 ロワはふらふらした足取りで立ち上がった。太ももに白濁が伝う。中に出されたまま後処理をしてもらえなかったのだろう。
 でも、今はそんなことどうでもよかった。ポタリ、ポタリと床にはしたなく白濁を滴ながらロワは歩きだした。

 人に化け、クガネの商店街で着物と日傘を見繕っていたところだった。
 自分がかけた結界が破られるのはすぐにわかる。ましてや今自分の屋敷にそれを破れる存在がいるとすれば一人しかいない。
「逃げようなんていい度胸だ」
 一人呟くと、聞こえなかったのだろう。仕立て屋が紫の帯を持ってにっこりと微笑んだ。
「ノロ様、こちらはいかがしましょうか」
 最早着物のことなどどうでも良くなって、店内を見渡す。入り口付近の棚の上。籠の中にそれはあった。
「これは?」
「そちらは、今流行りのものにございまして。クガネでは柴犬を飼うのがブームなんです」
「ほう……ならこれを一つ」
「旦那もお犬様をお飼いになるので?」
「まぁ、そんなところだ」
 そう。今まさに脱走しようとしている可愛くない飼い犬がいる。急いで籠に閉じ込めて、鎖をしないといけない。
 外の世界で迷子になってはあまりにも可哀想ではないか。
 昔、海の底に人々は住み、生きていた。
 空気を海底に留め、地上と同じように生活ができる夢みたいな真実。今でも紅玉海ではそうやってひっそりと生きる人々がいる。
 鬼の自分が身をくらませ自由に生きてこれたのは紅玉海の中、もう随分と昔に人が住まなくなった屋敷のお陰だった。
 そこに時々人間を引き釣り込んでは妖力の為に食してきた。力無く尽きると、地上に返してと、そうやって妖力を確保してきた。
 そんな日々の中で、ここまで長くもった人間はロワが初めてだった。
 エクソシストという力の所以もあるのかもしれない。生命力が並みの人間よりずっと強く、その力を吸い上げるときにやみつきになる。
 はてさて、この首輪は彼に似合うだろうか。
 店を出ると、真っすぐに第二波止場に向かった。

 屋敷に戻って最初に気がついたのが、長い廊下の所々が染みのように濡れていることだった。
 たどって歩くと、風呂場について、そこから先に手がかりがない。続いて、どこからかあまり嗅いだことのない匂いがした。どうやら台所の方からするようだ。
 台所など使ったことがないがと思いつつ、久々に戸をあけると、窓から差す日差しと、釜戸でしゅーっと煙をあげる鍋が見えた。そのすぐ下にうずくまるようにして三角に膝を抱えて座るロワがいた。
 ロワの前にしゃがみこんで下を向いている彼の頭を無理矢理こちらに向かせる。驚くほどに抵抗がなかった。
「何してるんだ」
「僕が逃げようとしたって思ってるんだろ?だから、急いで帰って来た」
 目があって一番にそう言われた。
「違ったみたいだな」
「逃げられないのはわかってる。僕だって馬鹿じゃない」
 黙って見つめる。何か言いたそうだった。
 今は逃げなかったことに免じて聞いてやってもいいような気持ちになる。
 不思議と、次にロワが何を喋りだすのか興味が持てた。
「僕が生きるのくらい、許してくれるだろう? 君の腹がすくように僕も腹が減る。果実や水だけじゃ君を段々満足させられなくなる」
 カタカタとと鳴る鍋の音が妙に遠く感じた。
 ロワの唇にそっと自らの唇を重ねる。ロワは静かに目をつぶった。
 そういえば、こうして唇に口付けするのは初めてだった。
 こんなにも近くでじっくりと顔を見たこともなかった。
 通った鼻筋。睫毛が思いの外長く、出合ったときより少しだけ頬がこけた気がした。
 距離が近くなって、ロワから石鹸の香りがして、納得がいった。
「風呂に入ったのか」
「タオルや水桶じゃ嫌だ……」
「なるほどな」
「僕は君の食糧かもしれないけど、それくらい許してほしい……」
 だめかな、と見つめられると駄目とは言い難く、自分の心境に困惑した。
「ああ、わかった」
 にっこりと微笑まれ、その顔が眩しくて顔を反らす。いつも抱いている時にみるのと全く違う。
「もうすぐスープ、できるから君も一緒に食べるかい?」
 なんだか居心地が悪くなって、すぐに「俺はいらない」と答えた。

◇◇◇

 あの日の夢を見た。僕はクガネで子供達に癒しの術について教えていた。
 まず理解から。そして実践へ。その二つの繰り返しが必要だ。
 その日は座学の日で、少し応用の術式に入ったところで、飽きた子供たちがなまずおと遊びだした。僕が一回休憩にしようかと言うと、子供達が喜んで、ならかくれんぼをしようと走り出した。
 その日は天気がとても良く、太陽がちょうど頭上を横切っていた。
 先生が鬼をやって、僕たちを見つけてね。
 大声で笑いながらクガネの商店街の方に散っていく子供となまずおの姿に、あまり遠くにいくなよなどと笑って声をかける。
 隠れるまであっちを散歩しててと言われて、はいはいと第一波止場でのんびり待っているときだった。
 僕は海に落ちた。いや、正確には何かに引っ張られ、水の中に引きずり込まれたのだ。
 突然のことにビックリして、息を吐き出してしまったことを後悔した。
 頭に何かを巻かれ、視界も呼吸も奪われる。
 どんどん河底に引っ張られていくのが怖かった。
 暫く、苦しさに耐えていると、急に息を吸える場所に着いたようで咳き込むように息をした。混乱に陥っている間に、両手を捕まれ紐で結ばれる。
 それにしても手際が良すぎる。これは、慣れていると思った。
 自分が荷物のように抱えられ、どこに向かっているのかさえわからないままなす術もない。
 視界を奪われるということがこうも怖いなんて、知らなかった。
 どこかの建物に入ったのだろうか。ギシギシと擦れる板と、足音。しばらくして、おそらく襖がさーっと開けられる音がした。
 すぐに体を放り出され、頭に巻かれていた布が解かれる。
 目の前に覗き込むようにして現れたのは人間とは少し違う存在。頭に鋭い角。月下の泉に映る月のように美しい金色の目。冷ややかに、否、舐めるように僕を見つめていた。
 僕はこの時、一瞬ぞくりとしたのだ。
 それを何に例えよう。例えばそれは……。

◆◆◆

 すやすやと寝息を立てているロワの頬を撫でる。すり寄るように頬を押し付けてきたので暫くそのままにして寝顔を見つめた。
 頬を指先でつつくと本当に無抵抗で、その呆気なさに驚いた。
 こうして穏やかに眠る姿はいつもと違う光景だ。いつもはもっと、乱れて気絶したように眠るのに。
 違和感に思わず布団を剥ぎ、覆い被さるようにロワに股がった。
 買ってきた首輪を懐から出す。首筋に手をかけ、着けてやる。
 似合ってる、なんて柄にもないことを囁いて、着けたばかりの首輪に、口付けを一つ。
 続けて、瞼、頬。
 シャツから覗く鎖骨には赤く痕がつくよに強めに口付けを落としていく。
 シャツの裾をまくると腹部が露になる。まだ昨日残した痕が所々に残っていて、少し薄くなり始めていた。上から被せて花弁を散らすように紅い痕をつけ直しながら、先程あったことを思い出した。

 ロワが人間らしく食事を終えてから、今後のことについて話をした。
 眠る時と、ノロが不在の時以外は鎖を外すこと。
 風呂と飯は自由にさせること。
 驚いたことに、ロワはそれ以上を望まなかった。
 唯一言ったのがこれだった。
「鎖に繋がれたところは、自分で治癒魔法をかけたい。擦れて痛いから」
「だめだ」
「なんで」
「それは俺が直す」
「でも、君の手を煩わせる必要がない」
「勝手に力を使うのは禁止だ。お前は俺の食料だからな……力が減るだろう」

 下腹部の性器を口に咥えて、味わうように舐める。同時に秘部を指でほぐすが、ロワは一向に目覚める気配がなかった。
 すやすやと眠るロワに自身の高ぶった性器を挿入すれば「んっ」と、ロワが声をあげた。わずかに頬が火照ってはいるものの、それっきりすやすやと寝息を立てている。
 治癒した手首が鎖に繋がれている。エクソシストの力を増幅させる装飾は全て外してあるから、手首も指も素のままだ。
 ロワをここに閉じ込めてからもう幾度となく手首と足首の傷を治癒してきた。
 力をもらう代わりに彼を妖力で癒す。それはほとんど日課に近く、それを自分でしたいと言われたときは正直イライラした。
 それにしても、とその手に触れた。
 ロワはいつになったら気がつくのだろう。少しの変化にまだ彼は気がついていないに違いない。指先の爪が薄桃色から、紅に変わりつつあるということ。それが意味することを彼はまだ知らない。
 皮膚を軽く裂くようにロワの肌に爪先を滑らせる。そこからじわじわと血が溢れた。
「っ……」
 流石にロワが目を覚ましたところで、溢れた血を一舐めすると、傷口がすぐに塞がった。
もうかなり治癒力が高い。血が出るほどの傷口がすぐに塞がる程に、彼の体は変化している。そう、それはまるで人ではない存在のように。
 興奮して貪るように突き上げると、喘ぎが大きくなった。
 ある一点を突くと、寝ぼけ眼のロワが、頭の働かない様子で言った。
「なに、して……」
「食事だ」
「な、なんで……起こしてくれたら良かったのに」
「俺のしたいときにする」
「まっ、て……」
 ロワは両手首を胸の前であわせた。鎖がカチャと鳴った。
「これ……外して……」
「だめだ」
「逃げないから」
 目があって黙って見つめ返すと、その目に意図がある気がして、鎖を外してやった。
 その間に何度か突き上げると腰を震わせて感じていた。
 鎖が外れると、ありがとうと丁寧に感謝する。自分を監禁して自由を奪っている相手に向ける言葉ではない。
 こういう手段でしか食事ができないのは仕方ないことだけど、とロワは少し顔を赤らめて上体を起こした。
 自由になった手が、肩に触れる。そのまま乗っかるようにして、逆に床に押し倒された。
 ゆっくりと優しく角を撫でられ、そこに触れるだけの口付けをされた。
「ノロ……どうせする食事なら楽しいほうが、いいだろ?」
 見上げるような体勢でロワを見た。
 前髪の間から覗く艶やかな目が綺麗だった。

 夜明けを、誰かと迎えるのは久しかった。
 ましてや人間で、食糧としか思っていない存在と二人。
 鬼である自分の腕の中で静かに眠り込む男。
 首につけられた首輪。
 白い首筋が美しく、憎くて、指でなぞる。
 昨夜は体の隅々に口付けをしたのに、そこだけ染まっていないような気がして気にくわなかった。
 すかさず口付けをして、一つ紅い花を散らした。
 この花は今もこれからも、消えることがないだろう。そう思うと、まるで自分が彼を深海に縛り付ける鎖のような気分になった。

(深海の花の鎖)